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ニュース

隈研吾氏
2024.08.08

建築家・隈研吾氏インタビュー「IGアリーナが名城公園の杜と一体化する想いを込めて」

IGアリーナの設計を担当いただいた建築家・隈研吾氏の現場視察に同行。樹形を模した象徴的な外観デザインである“樹形アーチ”を初めてその目で見た感想や、開業約1年前となったIGアリーナへの期待などを伺いました。


Profile

隈 研吾(くま けんご)

建築家
1954年生。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。50を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『隈研吾 オノマトペ 建築 接地性』(エクスナレッジ)、『日本の建築』(岩波新書)、『全仕事』(大和書房)、『点・線・面』(岩波書店)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、他多数。

web: https://kkaa.co.jp/




目指したのは名城公園と調和する人間らしい空間

― 今日初めて現地で実際に樹形アーチをご覧になられました。

隈:僕が一番心配していたのは名城公園の緑とのバランス。名城公園の緑の杜と調和するような建築にしたいと思っていました。形としては樹形を狙っているんだけれども、それがスケール的にどうなるのかを一番気にしていたんです。実際に見てみたらすごくバランスよく収まっていて、杜というものが人間の手でも作れるということが実感できて、非常に安心してます。

アリーナの周囲360度を樹形アーチが囲む
アリーナの周囲360度を樹形アーチが囲む。

―“樹形アーチに包まれたアリーナ”というコンセプトの着想はどこから?

隈:今回のアリーナは、ボリューム的に日本で一番大きなアリーナだと感じています。大きなボリュームをどうやってヒューマンな、人間らしい空間にするか、人間にとって親しみがあって優しい空間にするか、そのためにこの樹形アーチを思いつきました。IGアリーナの敷地は、幸いなことに名城公園と隣接していて緑がすぐ自分のもののようにあるので、そこに樹形アーチを取り付けるとIGアリーナが名城公園の杜と一体化する、杜になる、そういう想いを込めてこの樹形アーチを思いつきました。



―IGアリーナは2025年7月13日に大相撲名古屋場所でグランドオープン。昔の相撲小屋からも着想を得たという話を伺いました。

隈:ここで大相撲名古屋場所が開催されることは、僕らにとってすごくワクワクすること。昔の相撲小屋は木組みの屋根の下で相撲をとったわけですよね。あれを現代に蘇らせることができるかもしれないっていうので、建築デザインに自信を持って臨むことができました。



試行錯誤の末にたどり着いた理想的な樹形アーチ

―現在のデザインに決まるまでに色々な構想があったと。

:樹形アーチという「樹」というのが最初に頭に浮かびましたが、「樹」と言っても色々な樹の形がありますし、幹と枝の関係にも色んなものがあるので、どれが一番この名城公園に合うのか、たくさんスタディしました。一本の樹の太さから質感、色についてまで実物を使って確認して、最終的にこれだっていうのにたどり着けました。今回はいつもの何倍も苦労したかも知れない(笑)



―その樹形ですが、せりだし方や形状(太さ、長さ、組み方)が一周回ると場所によって違いますね。全部で何種類あって、例えばエントランスはどのような工夫があるのでしょうか?

:樹形アーチには大きく三種類の違いがあって、ぐるっと一周した時にそれぞれの環境とうまく調和してほしいと思って違いをつけました。観客を迎え入れるエントランスのところでは、来てくれた方々の高揚感を高めたいという思いで、大きくせり出した樹形アーチにして、大樹を抜けていく杜の感覚を演出しています。

3階スイートルームで細部の仕上がりを確認する隈氏。こうしたコミュニケーションの積み重ねで納得のいく空間が完成する。

―IGアリーナは1万7千人収容で、中を見ると圧倒的な空間ですが、外から見るとそこまでの威圧感を感じないような気がします。

隈:外から見た時にある意味で威圧的になってないのは、樹形という樹のマジックだと思います。樹の形っていうのは幹から枝にわかれていってどんどん太いものから細いものにわかれていくことで、先端ではどんどん繊細なものになっていくんですね。そういう樹の持っているある種のレイヤーのマジックみたいなものが建物全体を優しく、何かヒューマンなものにできたんじゃないかと思います。




誰も表現したことのない建築で繰り広げられる、想像を超えたスケールの体験に期待

―隈さんは常に新しいことに挑戦されている印象がありますが、IGアリーナでは?

:今までのスポーツ施設は、どうしてもコンクリートの大きな箱になってしまい、アリーナが大きくなってくると、すごく威圧的になるんですが、それをどういう風にしてヒューマンにするかを考え、樹を取り込むことにしました。樹は森に棲んでいた人間が長く付き合ってきた一番古い友達だと僕は思っています。スポーツ施設で樹を取り込むことには国立競技場の設計で初めて挑戦したんですけど、森に棲んでいた頃の記憶を感じさせるような建築にしたい、原初の人間の記憶の建築というものは、実はまだ誰も試したことがないんじゃないかと思って、それが一番の挑戦でしたね。



―最後に、大学院でアフリカでの現地調査の際に、テントで毎晩松任谷由実さんを聴かれていたというエピソードを著書で拝見しましたが、このIGアリーナで見てみたいイベントはございますか?

隈:ここの空間はものすごくフレキシビリティが高いので、僕が想像したこともないような凄いスケール感とスピード感のあるものが見られるんじゃないかなと思ってます。僕自身が度肝を抜かれるようなイベントが見てみたいなと、それがIGアリーナだったらいっぱい起こるんじゃないかなと僕は思ってます。


1階コンコースには隈氏デザインの「木陰天井」。アリーナ内部にも名城公園と一体化する仕掛けが。