【連載企画】アジア最高のアリーナを~IGアリーナの挑戦~
IGアリーナの開業まで残すところ約7ヶ月。グローバルスタンダードの規模を誇るIGアリーナの建設現場においては、これまで延べ254,000人ほどのプロフェッショナルが携わり、その技術や経験を発揮してきた。 来年のグランドオープンに向けて屋根の架設も終了し、残すところは外側通路と内装工事となる。
完成が近づく今、現場を支える方々のお話を通して、建設工事を記録に残していく。
1日最多800人の現場も、初めは5人から
名古屋という土地、そして大きな現場に携わることが初めてで、まずは環境に慣れるところからのスタート。
今まで経験した現場に比べて全ての数字の桁が一つ多い印象を受けました。
IGアリーナ建設プロジェクトは、2022年7月に起工式を終え、正式に着工となった。前田建設工業株式会社の菅原は、その少し前の2022年4月、入社後3つ目の現場として解体工事終了後の準備工事を担当することになり、愛知に引っ越してきた。準備工事は、本格的に作業員が入る前の仮設事務所や食堂の設置、朝礼広場のレイアウト検討など、工事を開始する前の環境を整備することを指す。1日最多800人の作業員が働く大所帯となり、朝礼を約40台のモニターを使用した配信で行うことになる現場も、当初は5人ほどの少人数で作業を開始した。それだけに、最終的に何人規模の体制になるかを見据えて全体をデザインする想像力が必要な作業であった。準備工事を終えると、7月からはいよいよ新築工事のスタート地点となる基礎工事が始まる。
構造設計をいかに忠実に再現するか
基礎工事は大まかに、地中に杭を打ち、その上に鉄筋と型枠を組み立て、型枠の中にコンクリートを流し込んで柱や梁を作り、更にその上に床面の土台となるスラブコンクリートを打つ、という順番で進む。基礎工事の終了が地上躯体工事の始まりとも言える。
隣り合う梁でも符号が違うなど、配筋の確認に苦労しました。基礎工事に限らず、柱符号や梁符号がとても多く、組み立てる作業員さんも検査をする我々にとっても気を遣う場面の連続でした。
IGアリーナ建設工事では約800本の杭が地中に埋め込まれ、地下約30mの硬い岩盤層をとらえている。杭打ち工事は認定工法であるため、工法を遵守しつつ構造設計をいかに忠実に再現するか、が絶対の使命である。地上に現れた杭の頭とフーチングと呼ばれる基礎を鉄筋でしっかり固定するか、あえて固定せずに水平力を逃がすかなど、構造設計者がシミュレーションした結果を正しく再現することで、杭は建物を支え、液状化を防ぎ、地震等からの安全性が担保される。
5か月で約800本の杭を打つ
菅原はこの800本の杭打ち工事の管理を任されることとなった。初配属の事務所ビル建設現場の杭が16本であったことを考えると、その本数はずば抜けている。6台の杭打ち機が1日に3本の杭を打つ日もあったほどだ。杭の本数は建物面積に比例するため、IGアリーナがそれだけ広大であることを示している。
1日に打つ本数が多く、施工時期が夏だったので疲労感はかなりありました。打設した杭は地中に埋まってしまうので、視覚的に成果物を実感できないことで当時は達成感を得るのが難しかったことを覚えています。
工法自体に工夫を凝らすことは許されない中、安全かつ効率的に工事が進むように杭打ち機の角度を細かく設定することや、メーカーから10mずつに分割された状態で納品される杭材の長さ・直径・ヒビの有無などの検収、できあがった杭と構造図を見比べて合格するまで検査を繰り返すなど、付きっきりで常に正しさを確認する毎日が続いた。建物自体が円形であるため、柱の中心線が放射線上に配置され、測量業者と緊密に連携して正確な座標管理を行う必要があることも、工事管理の難易度を上げた。真摯に目の前の課題をクリアしながら菅原が工期に遅れることなく杭打ち工事を完遂した頃には、夏から冬へと季節が変わっていた。
最終形がどうなるかをイメージできるか
IGアリーナ建設の初期段階においては、常に先を見据えて、最終的なゴールを目指しながら工事を進めていく必要があった。建設の流れを全てわかっていて、かつ最終形がどうなるかをイメージできる者でなければ務まらない役割である。ただその感覚は一朝一夕で得られるものではない。
杭工事がひと段落すると仮設工事担当になりました。躯体が水平直角ではなく放射状であるため、コーナー部分の隙間埋めなどに苦労しました。工事が進むにつれて調整する事柄、関わる人数も多くなり、円滑に進めるためには先を想像する力が必要だと再認識しました。
ひたすら図面や躯体図と向き合い、考え、作業工程を想像しながら最適解を見つける。センスと経験と知識が物を言う経験工学の世界である。以前の現場での経験を活かしつつ何時間も考えて見つけた答えを先輩社員に一瞬で論破され打ちのめされることも経験である。「初めからうまくいくことの方が少ない」と語る菅原の目は、同じ建設業界に身を置く父や先輩社員の背中を追いかけながら、IGアリーナの完成を見据えている。